で、中身の方は…というと、特段目を引くような情報もない薄味あっさり仕立て。去年のボクシング特集では「世界王者国別分布図」とかそれなりに面白い切り口の記事を載せてくれていたのだが。一昔前の格闘技特集号と同じで、ファンからするとやっつけ感の強い出来上がりになっちゃったかなあ。
そんな中で比較的面白かったのが、比嘉大吾のインタビューに出てきた「井岡の試合後に余り時間で放送していた具志堅用高KO集を見てボクシングを始めた」というくだり。いや、この映像は自分も見て「すげえな」と思ったのでよく覚えてる。当時はレフェリングもけっこう雑で、ダウンして片膝ついた相手にとどめの一撃を入れてる場面もちょいちょいあるんだけどね。
それにしても、当時沖縄であの映像を見ていた中学生が6年と少しの後に世界王者に。そして、当時テレビの向こう側の存在だった井岡に統一戦を要求するが井岡は引退。人生は思わぬきっかけから変わっていくし、運命の皮肉っていうのはあるんだなあ。
RIZIN旗揚げや新生K-1のプチブレイクにより国内の格闘技市場自体は底を打ったはずだが、そのタイミングで老舗雑誌が休刊。格闘技ファンになったばかりのライト層にとってゴン格がとっつきやすい内容だとは言いにくいし、雑誌市場そのものが縮小し続けている昨今の情勢からして、致し方ない結末なのか。ここ1~2年の値上げ状況からして「部数が伸びず、価格弾力性の低い固定ファン狙いなのかな」というのは何となく透けて見えてはいたけれど。
ネットが普及した時点で試合結果の速報性という点での紙媒体の価値は暴落していたわけだが、そんな状況にあってもゴン格は「専門誌が何を提供できるか・提供すべきか」という課題に向き合い続け、一定程度以上の成果を出していたと思う。
選手へのロングインタビューや技術解説により、テレビの試合中継やネット媒体では見えにくい背景情報を提示してくれていたし、それが次に試合を見る時の「この選手はこんな発言をしていたっけ」「高阪によるとこういう場面では選手はこう考えてるんだよね」という新しい切り口につながっていた。そういった、格闘技を見る際の「引き出し」の供給元が絶たれるのは自分にとってもジワジワ影響が出てきそうだなあ…。そういう楽しみ方をできる人間の数が増えていかなかったことが今回の休刊にもつながっているんだろうけど。
これまで2度の休刊を経験しながらも版元を変えながら継続してきたゴン格。果たして「3度目」はあるのか。今の出版業界の様子からして楽観的な気持ちには全くなれないが、まずは歴代編集部のこれまでの努力に心から感謝。最後となる…いや、300号の節目となる次号の発売を、楽しみに待たせてもらいます。
飯伏のぶっ飛んだエピソードをはじめとしてどの記事も楽しく読ませてもらったが、棚橋を取り上げた記事の「四面楚歌の状況に追い込まれた棚橋は、ついに最強の敵と戦うことを決意した。猪木の幻影、ストロングスタイルである。」というくだりなど、全体的に「新日の復権」と「脱猪木・脱ストロングスタイル」を直結させようとしているのが少々気になった。
2000年代前半の新日本が猪木に振り回されていたのは間違いないのだが、それをリング内外で上手く消化できなかったのは当時の首脳陣の経営センスの欠如も一因なわけで、今の隆盛も「脱ストロングスタイルで盛り上がった」というよりは「どん底状態のメンバー中、一番集客センスのある棚橋がこういうスタイルだった」という以上の意味はないと個人的に思っているのだけど。そういう意味で読んでいて一番ストンと落ちたのは蝶野のインタビューだったので、以下抜粋。
・アメリカのエンタメ系プロレスも大きい興業ではストロングスタイルと言っていい試合をやっている。大きくとらえたらエンタメ系とストロングスタイルの区別なんてない。
・自分がいたころの新日本はよくも悪くも営業の会社で、ゴールデンタイムのテレビ中継を見てもらうことが最大の宣伝。広報の部隊がほとんど機能していなかった。その最も足りなかった部分に木谷社長が力を入れたことが大きい。
・これからは離れたファンを戻す試みも必要になってくると思う。ドーム興業で藤波さんや長州さんをリングに上げれば、2人のファンだった人が集客の1割から2割を埋めてくれるかもしれない。
特に3点目は自分も強く感じるところで、新日本が更に次のステップを狙うとしたらオールドファンの掘り起こしは避けて通れないオプションなのでは。それこそWWEのレッスルマニアのように年に一度のレジェンド枠で参戦すればもの凄い「お祭り感」が出せると思うのだが。
ただ、レギュラー参戦していない大物選手をいきなり引っ張り出すのは化学反応が期待できる一方で噛み合わないおそれもある「ギャンブル」なわけで、今の新日本がそういうギャンブルを排除してここまで息を吹き返してきたのも確か。OBの大物を活用するのは経営方針に合わないということなのだろうか。1.4ドームで中邑vs蝶野とか組まれたら絶対見に行くんだけどなあ。
「(パンクラスでは)二度と戦うつもりはない。このままなら、またバカにされるだけだから、もうパンクラスでは戦いたくない」
「(日本で戦いたいと思っているブラジル人ファイターには)日本では外国人選手はリスペクトされないと伝えるよ。日本ではゴミのようにしか扱われないから、日本のことは忘れた方が良いと伝えたい」
というサンドロの激しい言葉は、誌面からでも怒りが伝わってくる。判定の是非についてコメントはできないが、日本で数々の名勝負を見せてくれた選手がこういうイザコザで本当に来なくなってしまうとしたら寂しい。
サンドロの去就は一旦さておいて、今回の特集がしっかりしているのはパンクラスの梅木レフェリーや修斗の鈴木事務局長といったジャッジをする側にもインタビューをして、ジャッジの考え方を質問している点。一般のファンとしては「あの試合のジャッジはおかしかった」と思うことはできても「じゃあなんでジャッジはああいう採点をしたんだ?」と聞くことはできないので、こういう記事は本当にありがたい。
梅木・鈴木の両名ともユニファイドルールへの適応については試行錯誤という雰囲気だが、それでも
・塩水に例えると、従来のジャッジはドンと塩を入れた場面(ダウンなど)が重要視されるのに対し、ユニファイドは5分間塩を入れ続けて、5分間の塩分量の濃さを判断する。(梅木)
・まず評価されるのは効果があること、続いて有効かどうか。お尻や肩に当たっても相手がすごく効いて逃げ回ったらこれは効果的。そこで差がつけられない場合は、どちらが綺麗に当てていたか(有効か)を評価する。(鈴木)
といった発言はなるほどね、と思わされた。見る側も文句つけるだけでなく、どういう基準でジャッジが判断しているかは理解しないといけない。そのうえで「この判断基準自体がおかしい」と思ったらそういう声を上げればいいわけだし。
あと梅木レフェリーが紹介していた「大会終了後に審判団のなかで意見交換を行い、アメリカでライセンスを持つジャッジに質問をするなどして意思統一を図っている」という事実には安心した。まあアメリカも含めそれでも変なジャッジは後を絶たないわけで、勉強会をやっていることを免罪符にしては駄目なんだろうけど。
新日本のV字回復ぶりは経済誌でも取り上げられるレベルの話になっているので今回も「私はいかにして新日本プロレスを立て直したか」的な話に終始するのかと思いきや、インタビュー後半は今後の経営戦略に関するシリアスな話だったので驚いた。以下概略。
・WWEの動画配信サービスは契約者が100万人を突破したが、将来的には300~400万人を目指すと言っている。中国市場開拓のため、2年以内に中国人レスラーが登場するのではないか。
・WWEがその規模にまで達したら、日本人レスラーを含め優秀なレスラーは全員引き抜かれてしまう。そうなる前にトップ選手に1億円支払える状態にしたいが、そのためには新たな収益構造が必要。
・新日本プロレスワールドは契約者2万2000人で黒字構造には達しているが、3年以内に20万人まで拡大したい。現在は英語ページがないのに海外の契約者が多く、早急に英語ページを立ち上げる。最終的なイメージとしては日本人12万人、海外8万人。
プロレス女子だなんだとマスコミに取り上げられ、これだけもてはやされている状況の中、冷静にWWEの脅威を分析して対抗手段を模索。いや、やっぱり優秀な経営者って二手も三手も先を読んでいるのね。この人がオーナーで本当に良かった、と再認識。
もっとも目端の効く人なら当然こういう意識を持ち続けてるはずで、歴代の新日経営陣がいかに駄目だったかということの裏返しでもあるわけだが。いや、別に藤波バッシングをしたいわけじゃないですよ。やべっ、名前出しちゃった。
そんな中で異彩を放っていたのが横田一則のインタビュー。現在12連勝中なわけだが、UFC出場については「(興味が)全くないです」と即答。その理由をまとめると以下のような感じ。
・試合にかかる費用や自分のファイトスタイル(=ファイト・オブ・ザ・ナイトには縁がなさそう)を考えると、自分の場合は日本で試合をしている方が稼げる。
・自分は現役生活ももう長くないし、引退したら格闘技以外の仕事もやろうと思っている。それを考えると、自分の試合を会場で見てくれる人を増やして、引退した後も応援してもらるようになる方がいい。UFCに出るより「後楽園でチャンピオンになった」「大晦日にさいたまスーパーアリーナで試合をした」という方が認知される。
・今年37歳で、子供も2人いる。そういう人間がリスクを負ってUFCにチャレンジするのは現実的じゃない。
うーん・・・。青木と似通っているようで、そことも微妙に違うロジックでの「非UFC路線」宣言。上記の主張に対して「夢がないじゃん」という感覚論以外で反論できる人がいるのだろうか?自分は横田とほぼ同年齢で子供2人という点も一致していることもあり、「そりゃそうなるよなあ」とただ納得してしまった。
大多数の選手にとっては「世界最高峰の舞台を選ぶ=金銭面でも高待遇になる」という図式なんだろうけど、年齢や諸々の状況が絡み合ってそこがイコールでつながらない人もいる。だからUFCに挑まない、というのは「逃げ」でもなんでもなく、経済的合理性からして当然の選択。横田が引退後も経済的に成功してくれれば、それはそれで「格闘家にとっての理想的なキャリアパスのひとつ」になるわけで、格闘技界にとっては間違いなくプラス。そういう点に改めて気づかせてもらえたという点で、大変ためになる記事だった。
・観客動員は5000人はいた(※実券かどうかは触れず)
・皆が思うほどチケットの売れ行きも悪くない。当初の予定より500枚ほど下回ったが。
最初からそれほど高望みはしていなかったということなんだろうけど、目標からの下ブレはその程度に収まってくれていたのか、という印象。とはいえチケット単価を考えると、これだけで400万程度の減収になってしまうわけだが。やはり大応援団の動員を見込めた高谷の欠場が痛かったか。
インタビュー中でも触れられていたが、興味はあっても既に大晦日は予定があったという人も多かったはずで、イベントとして継続して、動きだしが早ければ上積みの余地はあるはず。佐伯代表の男気で復活した大晦日興業を再び定着させられるか、今年の展開に注目。
あとは一向に情報が公開されないTUF JAPANについての情報。
・噂レベルで秋山と五味がコーチに就任し、ウェルター級でコーチ対決という話が一時聞こえていた。
・日本陣営の人物がUFC182の会場で確認された。レフェリーやカットマンの陣容確保も進んでいる模様。
・当初予定された2階級から1階級に絞られる案が上がっている。
・トライアウトは2月が有力視され、撮影開始は遅くとも4月。9月の日本大会で決勝が組まれる方向性に変わりはない。
TUF JAPANについてはファン以上に選手自身の方がやきもきしている状況だと思うので、一刻も早い正式発表を待ちたい。
ファイトボーナス没収という金銭面のダメージ以上に、伸び盛りのこの時期に9ヶ月試合に出られないことが本人的には痛手だろうとは思う。ここは気持ちを切らさず、しっかりスキルを磨いて再起戦に備えてほしい。
あと興味深かったのは、日本初のフィーダーショーという位置づけでCAGE FORCEの歴史を振り返った記事。この記事で初めて知ったのだが、CAGE FORCEの前身であるDOGの成り立ちが面白くて、
・FEGがとあるスポンサー筋から話をもちかけられ、HERO’Sとは別ブランドの立ち上げを計画。
・そのスポンサーの資金で金網を作成。『ローデッド』というイベント名と「弾はもう込められた-」というキャッチフレーズまで決定していたが、結局FEGが撤退。
・『ローデッド』に出場予定だった慧舟會所属ファイターがあぶれたことからDOGを立ち上げ。
という経緯があったそう。CAGE FORCEの使っていたケージがFEG資本で作られていたとは!
少し前に『PRIDE機密ファイル』なんて本も出ていたけど、格闘技バブル全盛期にDSEやFEGが計画したものの実現しなかったプランは山ほどあるはずで、「実はあのころこんなプランが持ち上がっていて・・・」という裏話は格闘ライターがつかんでいる範囲でも相当な量になるのでは?当時の関係者の顔色を窺う必要性は年を経るごとに薄まっているだろうし、この手の話は小出しでいいのでどんどん記事にしてほしい。
水垣はトーナメントの優勝賞品をもらっていないらしい。人気ブログランキングへ
藤原 (付き人に)おーい、新しい「スポーツドリンク」(※組長用語で酒)あるか。俺だけ酔っ払っちゃさあ。いけるんだろ?
中井 でも、藤原さんは、変わりませんね。
藤原 そうかい?俺、随分変わってるよ。チ○コ起たないもん。
てな感じですよ。詳しい内容はとにかく一読を。
あと面白かったのは、シュウ・ヒラタによる北米MMA中継解説者の査定。評価が高かったのはジョー・ローガンやケニー・フロリアンで、最低評価はバス・ルッテン。ルッテンはONE FCの解説をした際、吉田善行をずっと「ヨシダはPRIDEで凄かった。柔道の選手は強いんだ。」と言い続けていたらしい。さっさとクビにしちまえ。
記事の最後の方では日本人選手の解説能力についても触れていて、「良い意味で責任感を持たず、話が上手い水垣」「責任感を持って真面目にしっかりと話してくれる川尻」「解説慣れして上手いのが岡見」という評価。いや、ここまで来たら最後に「放送席泣かせの菊野」というのを加えておかなきゃダメだろう。
記事全体を見ると、やっぱり技術的知識や選手の情報に詳しいのは大前提で(前述のルッテンなんかはその前提が怪しいわけだが)、そこからどれだけ分かりやすく、あるいはニュートラルに喋れるかに各自のセンスや頭の良さが出るという感じか。当たり前っちゃ当たり前だけど。
こうなると北米じゃなくて国内版の解説者査定を特集して欲しいのだが、取り上げた選手との間がギスギスしちゃうし難しいか。菊野が星0.5とかの評価になっちゃうだろうし、ってしつこい?
あと今回の特集が良かったのは、MMAの歴史におけるフロントチョークの位置づけも意識していて、ペケーニョにもしっかり2ページを割いてくれていること。
自分が初めて修斗の興業を生観戦したときのメインがペケーニョvs勝田哲夫のタイトルマッチで、この試合でもペケーニョはギロチンで一本勝ち。ペケーニョの噂は散々耳にしていたものの、実際目にして「なんでこんなクセのある技が必殺技として成立するんだ?」と度胆を抜かれたのをよく覚えている。
記事の中ではこのペケーニョのギロチンを「際の動き」という切り口で捉え、「スクランブルの攻防のなかでギロチンを極めている」「ペケーニョは、見事なMMAを当時から見せていたことになる」と分析。確かに自分が見た勝田戦も、起き上がり際に勝田のタックルを誘い込んでギロチンを極めていたっけ。こういう風に自分の観戦経験を技術論から振り返るというのも何か新鮮。
ゴン格の技術分析は実際にやらない人間からするとどうしても敷居が高いというかピンと来ない部分が出てしまうのだが、こうやって実際の試合の変遷と重ねながら分析をするのは観戦専門のファンにとっても馴染みやすい切り口。今後もこういう特集をぜひお願いしたい。