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by nugueira
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全日本キック観戦記③

小林聡×-○ジャルンチャイ・ケーサージム(判定)
 
 自らが保持するベルトを体中に巻きつけて入場してきた4冠王・ジャルンチャイ。団体乱立のキックボクシングの世界であっても、「ベルトコレクター」の肩書きは威圧感を放つ。
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 今の小林が持つ存在感を、いったいどのように表現したらいいのか。期待感とも不安感とも悲壮感ともつかない、大月の入場時とはまた異質な興奮が後楽園ホールを包み込む。
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 試合開始と同時にいきなり小林が前蹴り。その直後に今度はジャルンチャイが首相撲から小林をマットに投げ飛ばす。大胆不敵な小林、そしてそれに揺らぐことのない王者。
 ジャルンチャイは細かいローからミドル、小林はパンチ狙いという構図。出だしは静かなまま終わるかと思った1R終盤、小林が突然バランスを崩す。ジャルンチャイはこれを見逃さず、組み付いてからヒザを連打。いきなり攻勢をしかけてきた。
 2Rはジャルンチャイの首相撲からのヒザ地獄が開始。首相撲に抱えたまま後ろに回りこむような体勢から、太腿の同じ箇所に突き刺すようなヒザを連打してくる。小林はパンチに行きたいが、フックは空を切るばかりで、間合いが詰まるとすぐに首相撲。相手にパンチの距離を取らせてもらえない。
 中盤で完全に試合をコントロールしたジャルンチャイは、4Rから今度は前蹴りでの攻撃を多用。これが度々小林の顔面を捉え、さらには右フックをヒットさせて小林をぐらつかせてみせる。終盤のラウンドは小林のパンチがようやく当たり始めるが、完全に流しモードに入ったジャルンチャイが前蹴りと首相撲でいなし続けて試合終了。組み付くジャルンチャイに対するブーイングも微妙に聞こえたが、ムエタイの価値観からすれば横綱相撲。4冠王はどこまでも強く、巧く、ズルかった。
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 正直なところ、小林の負けは予想していた結果だったので、悔しいというよりも「やっぱり相手が強かった」というのが率直な感想。ここから小林はどう這い上がってくれるんだろう・・・と思っていた矢先、マイクを持った小林から衝撃の発言が。

「今日はありがとうございました。ふがいない試合をしてしまいすいません。精いっぱいやったんですけど。今日の試合を最後と決めてリングに上がりました。15年間ありがとうございました。これからもキックボクシングをよろしくお願いします」

 客席中からの戸惑うような悲鳴。「小林やめるな」「小林ありがとう」という声援を背に、小林はこれ以上何も話さずにリングを降りた。

 小林の試合を見るようになったのはここ2年ほどだが、この間にすっかり、この男の魅力に乗せられるようになっていた。決してズバ抜けて強いとは思えないのだが、不思議と存在感を発揮し続ける選手だった。泥臭くて不器用だが、決してブレることなく、自分に対して真っ直ぐに生き続ける。「今どきはやらない」という一言で片付けるのは簡単だ。だけどやっぱり、ファンはこういう「生き様」を見せてくれる選手には弱い。

 小林の引退に対して、外野の人間が「やめるな」というのは容易い。現に私自身も、リングを降りる小林に「小林、あきらめんな!」と叫びそうになった。だけど、その言葉は言わずに飲み込むことにした。
 ブレずに、自分の信念を揺るがせることなく戦い続けることが魅力だった男が下した、引退という選択。ブレることなく歩き続けたその先に、今回限りでグローブを置くという結論があった。小林にとっては今回の行動もまた、自分の信念に従い続けたが故の自然な結果だったのではないか。

 寂しくないと言ったら、絶対に嘘になる。だけど、小林の生き様に魅了されてきたファンであればこそ、今回の小林の選択は真正面から受け止めなければならない。これもまた、「野良犬」の生き様のはずなのだから。

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by nugueira | 2006-11-16 01:07 | 全日本キック | Comments(0)