長谷川穂積引退。王者は気高く、ようやくグローブを吊るす。
2016年 12月 09日
長谷川の試合については毎回当ブログでも取り上げてきたのだが、とにかく思い出に残る試合が多すぎる。V10からモンティエルとの激闘で王座陥落、という過程だけでも間違いなく日本ボクシング史に残る名王者なのだが、そこから飛び級での2階級制覇、ジョニゴン戦で再び王座陥落、3階級制覇に挑むも壮絶に散ったマルチネス戦、そしてウーゴ・ルイスを破っての3階級制覇…と、バンタム級王座を失った後も記憶にも記録にも残る名勝負を連発してみせた。こうして振り返ると長谷川一人で並の世界王者2人分・3人分の物語を生み出してきたことに、改めて度胆を抜かれてしまう。
激闘の代償も当然大きく、特にジョニゴンに敗れて以降は試合の中で打たれ脆くなったことを感じさせる場面が多くなった。仮に現役続行となった場合、ファンも家族も「無事にリングを下りてきてくれるのか」というスポーツ競技として許容されるボーダーぎりぎりの緊迫感に付き合わされるわけで、このタイミングでの引退は本人にとっても周囲にとっても、ベストの選択だろう。
今回の会見で長谷川が引退理由として挙げた「自分自身に対して、もうこれ以上証明するものがなくなった」。このセリフをこれだけ説得力を持って、かつ悲壮感なく言える人間が、果たして日本中にどれだけいるだろうか。誇り高き王者は、長い旅路の果てにようやくグローブを吊るす。ただただ、お疲れ様でした。そして、ありがとうございました。