PRIDEミドル級GPプレビュー⑧ 「狂気の柔道王」禁断の大勝負へ。「圧倒的現実」から目を逸らすな!
2005年 04月 17日
昨年10月のPRIDE28。ルーロン・ガードナーとの大晦日決戦が電撃発表された際、吉田が「昨日オファーをもらったばかりなんですが・・・」と言うのを聞いて、不謹慎ながら最初に頭に浮かんだのが「莫大な金が動いたんだなあ」という感想だった。現役を退いたばかりのトップアスリート、しかも自分よりはるかに体重の重い相手との対戦を、オファーをもらった当日のうちに決断する理由は「破格のファイトマネー」という以外に思いつかなかったのだ。
しかし、今回のGPでは相手からの逆指名に応える形で初戦からシウバと対戦。ここに至って(遅いかもしれないが)「この男は条件云々よりも闘争本能で動いている」と認識を改めざるを得なくなった。
ガードナー戦に敗れた後の復帰戦、しかも先の長いトーナメントの初戦。ここは後も考えて多少なりとも分の良さそうな相手を選ぶのが妥当だろう。PRIDE側としても、大阪ドームに客を入れるための目玉カードが必要なのは確かだが、今後の展開を考えれば日本人にはできるだけ残って欲しいはず。プロモーターとしても初っ端からこのカードを切ってしまうのは非常にリスキーなわけで、大晦日のガードナー戦と比べても、主催者側より選手側の意向を中心に決まったマッチメイクに思えてならない。
以前ある雑誌で紹介されていたエピソードだが、前回のシウバ戦で、1Rに打撃を食らった吉田はラウンド間のインターバルに「あの野郎、ぶっ殺してやる!」と絶叫したらしい。日頃は飄々とした態度で優等生的発言の多い吉田の内側に、常人離れした精神力と闘争本能が隠れていることをよく表している逸話だと思う(よく考えればそういう人間でなければオリンピックの金メダルなんか取れないわけだが。)。ガードナー戦や、その前のハント戦にしても、プロモーターの思惑に加え、吉田の「とにかく強い相手と戦いたい」というモチベーションがあってこそ実現したカードなのだろう。もはや「飢え」というか「狂気」に近い闘争本能。今回のシウバ戦はその当然の帰結と言えそうだ。
とはいうものの、今回の勝負は吉田にとって禁断の選択になってしまったと思う。リベンジマッチというのは、本来は勝てるはずだった相手に取りこぼしたというケースを除き、基本的に前回勝った方が有利だと思う。まして相手のシウバも、5年以上に渡って無敗を続け、敗れたとはいえヘビー級のK-1王者と真っ向から殴り合ってしまう、吉田に劣らぬ「狂気」の持ち主なのだから。
紙プロの受け売りになるが、PRIDEの歴史はファンの幻想を粉々に打ち砕いて、あまりに厳しい「圧倒的現実」を提示することの繰り返しだと思う。高田-ヒクソン戦しかり、高田の引退試合しかり、桜庭-シウバ戦しかり。「柔道王のリベンジ成功」は、多くの観客が喜ぶある種のハッピーエンド。だけど結局今回も、最後に目の前に突きつけられるのは、誰もが望んだわけではない、シビアでリアルな現実ではないかと思えてならないのだ。
4月23日。「圧倒的現実」を凝視する覚悟はあるか?覚悟がなければ、大阪ドームに足を踏み入れるな。
ヴァンダレイ・シウバ最近5試合の戦績
2004/12/31 ●マーク・ハント(判定)
2004/10/31 ○クイントン・ランペイジ・ジャクソン(KO)
2004/8/15 ○近藤有己(KO)
2004/2/15 ○美濃輪育久(KO)
2003/11/9 ○クイントン・ランペイジ・ジャクソン(TKO)
吉田秀彦最近5試合の戦績
2004/12/31 ●ルーロン・ガードナー(判定)
2004/6/20 ○マーク・ハント(腕十字)
2003/12/31 △ホイス・グレイシー
2003/11/9 ●ヴァンダレイ・シウバ(判定)
2003/8/10 ○田村潔司(袖車)
(展開予想)
リベンジマッチは基本的に前回勝っている方が得意意識を持っているので有利。リベンジが成功する条件は、もともと力が拮抗していて、前回勝っている方に「またこいつとやるのかよ」という意識がある場合に限られると思う。
今回の場合、吉田がリベンジに燃えているのはもちろんだが、もともとはシウバから言い出したマッチメイク。モチベーションの差は全くないと言っていい。そうなるとシウバと吉田の力関係の話になってくるが、繰り返しているとおりシウバが負けるとすればストライカータイプ。組み技系は組み付く前に打撃を食らってしまうのがオチだろう。まして吉田はタックルから倒すタイプでもないので、どうしても打ち合う局面が多くなる。やはり吉田が勝つ展開が見えてこない。
あと試合と関係ない話だが、今回はさすがにシウバを後から入場させてほしい。去年の小川-ヒョードル戦もそうだったけど、人気選手が相手だからって現役のチャンピオンが青コーナーにいるのは変でしょう。PRIDEも競技性を高めていくんならこういうところからキチッとしようよ。