全日本キック観戦記③
2007年 08月 28日
1Rは右ローを蹴りこんでいく前田に、梶原がワンツースリーを打ち返していく場面の繰り返し。予想どおり、お互いの持ち味をシンプルなまでに出し切ったゴツゴツとした試合展開。1R終了時点で梶原は足をひきずっており、ローがだいぶ効いている様子。
2R、足が止まってきた梶原をロープ際に詰めた前田はパンチ勝負に出るが、逆に梶原のカウンターがヒットし前田がダウン。やはりパンチでは梶原に分があるか。しかし立ち上がった前田はなおもパンチ勝負に挑み、今度は逆にダウンを奪い返す!ローで攻めた方が安全に思える前田だが、この後もパンチで真っ向勝負。梶原がさらにカウンターで2度目のダウンを奪い、前田が逆襲に転じたところで2Rが終了。場内が大興奮に包まれる!
3ラウンド以降、梶原は明らかに両足にローが効いている様子だが、前田は必要以上に足は狙わずパンチ勝負にこだわり続ける。足が止まった梶原に対して前田が徐々に押し気味になるが、梶原も心は折れておらず反撃を止めない。「死力を振り絞る」という表現すら生ぬるく感じるほどの削り合いのまま、3ラウンド、4ラウンドが終了。
このまま判定にもつれこんでもおかしくないと思われた最終ラウンド、前田が最後の勝負をかけるようにラッシュをかける。パンチ連打からミドルキックを叩き込んだところで、梶原がスタンディングダウン。一度は堪えたものの、再開後に再びミドルを食らったところで遂に梶原が崩れ落ちる。キックボクシング史上どころか格闘技史上に残る激戦の末、前田が梶原を粉砕してみせた。
2ラウンド以降の場内の興奮をどうやって表現すればいいのか!
格闘技の試合を見てここまで震えと涙が止まらなかったことがあるだろうか?そして、これほどの試合に今後めぐり合うことができるのだろうか?
前田が冷静にローキックに絞った攻めをしていれば、ここまで苦戦することはなかったはずだ。だがその場合、この試合はここまで見る者の心を打つものになっていただろうか。
今の世の中ではとかく「器用」「スマート」といった価値観が重宝される。そんな風潮からすれば、前田のこの試合はあまりに不器用で、愚直に映るかもしれない。だが、どんなに不器用で愚直であっても、自分の信じるものに真っ直ぐに突き進む人間は最高に素敵で、最高にかっこいい。どんな時代であっても、これは普遍的な事実だろう。
格闘技の試合からはかけ離れた感想で、試合を見ずに観戦記を読んだ人は唐突な印象すら受けるかもしれない。だがこの日の前田の姿には、そんな唐突な感想を呼び起こしてしまうだけの凄味と説得力があった。試合後もなかなか止まなかった場内の悲鳴のような歓声が、その証拠ではないだろうか。
この試合の感想は、いくら書いても書き尽くすことができない。最後に一言だけ。この試合にめぐり合うことができて、本当に良かった。
あと1試合。人気blogランキングへ
この試合はどんな言葉を使っても語りきれないですよね。
見た人間にしか理解できないでしょうが、本当に伝説と言っていい一戦でしたね。伝説の証人となれた喜びを、改めて噛み締めています。